介護士の仕事

介護士がやってはいけない医療行為と介護士でもできることとは?

介護の現場で、便秘で苦しんでいる利用者や床ずれのできている利用者に、接することがありますよね。

職場や家族からやってはいけない医療行為を、求められるかもしれません。

求められたからといって医療行為を行なってしまうと、介護士として仕事ができなくなってしまう危険性があります。

今回の記事では、介護士がやってはいけないこと、やってもよいことのご紹介します。

どうして医療行為をしてはいけないの?

医師法によって、医師や看護師などの免許のない人が医療行為を行うことを禁止されているからです。

そのため、免許を持たない人が医療行為を行うと、法律違反となり書類送検・逮捕される可能性があります。

また、「これくらい、大丈夫かな」という安易な気持ちで行うことで、重大な医療ミスとなるかもしれません。

私の友人から聞いた話ですが、ある職場では介護士が摘便をしていたそうです。

すると、利用者がみるみる顔色が悪くなり、冷や汗をかいてきて慌ててしまったと話していました。

その時には、幸い、摘便をやめ安静にしていたことで体調が回復されたそうですが、一歩間違えたら、取り返しのつかない状態になっていたかもしれません。

このように行為によっては、利用者が死に至ってしまうこともあり、「知らなかった」では済まされない事態を招くこともあります。

介護士がやってはいけない医療行為と介護士にもできることとは?

介護士は原則医療行為をやってはいけません。

しかし、補助などのケアや医師の指導のもとなど、条件がそろえば介護士にもできることがあります。

介護士として何をやってはいけないのか何ができるのか、正しく把握し安心して仕事に取り組みましょう。

①摘便

自分で排泄が難しい時に、肛門から指を入れて便を書き出す行為です。

腸管を傷つけ出血や腸に穴が開くリスクがあり、専門的な知識が必要になります。

摘便が必要な場合には、医療従事者に相談し対応してもらいましょう。

便秘は、運動不足や水分摂取不足・食事内容などの生活習慣に、原因があることが多いです。

介護士は利用者と日常的に摂することが多い職業ですよね。

そのため、利用者の生活習慣の中に便秘の原因を見つけやすいでしょう。

介護士が利用者に運動や水分摂取をするよう声かけすることで、便秘になりにくい生活習慣のきっかけを作ることができます。

私も施設で働いていた時、便秘傾向の強い方がいらっしゃいました。

その利用者は便秘薬を飲んでいらっしゃる方でした。

そこで、水分摂取量を多くするよう促し声かけをしたことで、水分摂取量が増えて便秘改善ができたことがありました。

食事内容についても、主に調理をする人や栄養士など関係する人・機関に相談をしたり、働きかけることで、改善できる余地はありますよね。

②床ずれの処置

圧迫された皮膚に赤みやただれなどの症状が出てくる病気です。

床ずれの処置は悪化すると、潰瘍や細菌感染につながってしまうこともあるんですよ。

そのため、軟膏を塗布したりドレッシング剤などの保護テープを貼ったり、処置が必要になるので、医療従事者の仕事で介護士がやってはいけないことです。

原因は、寝たきりの状態など同じ姿勢でいたり、栄養状態の悪化が考えられますね。

介護士が体位交換をすることで、同一体制でいることを防ぐことができます。

栄養状態については、医療従事者や栄養士・職場の先輩などに相談し、栄養状態の改善を試みてください。

必要に応じて、栄養士など関係機関との連携もしていきましょう。

また、皮膚の観察をして早期発見をすることで、医療従事者に報告・相談し潰瘍や細菌感染などの悪化を防ぐことができます。

③インスリン注射

インスリンの不足を注射で補給し、血糖値を下げるという糖尿病の治療の一つです。

投与量や効果が作用する時間は、個々に応じて対応が必要なため医療行為となり、介護士がやってはいけないことです。

しかし、以下の行為であれば補助にあたり、介護士にもできます。

インスリン注射を行うなどの促しや行為を行なうための声かけ、使用済みの注射器の片付け・インスリンの量を利用者と一緒に確認するなどです。

あくまでも、自己注射ができる利用者への介助ということは、はずせないポイントですよ。

注射器の片付けの際には、針を自分に刺してしまう針刺し事故に注意してください。

もし、針刺し事故が起きた場合には、医療従事者へ相談し適切に対応することが必要です。

④血糖測定

血糖値を測定することでインスリンの量の判断をしたり、治療の状況を把握するために行います。

血糖測定器の先に針がついており、糖尿病患者が自分で針を刺して血糖値の測定をします。

針を刺すことは介護士がやってはいけないことです。

しかし、測定器に試験紙をセットしたり測定結果を利用者と一緒に確認することは、介護士にもできます。

⑤点滴の管理

点滴はボトルやバックに入っている薬剤を吊るし、注射針を通して、体内に投与する医療行為になるため、介護士がやってはいけないことです。

介護士が点滴終了後の針を抜くことも医療行為にあたりますので、注意が必要です。

介護士にできるようになったことは?

2005年に厚生労働省により、医療行為とみなされない行為が明確に示されました。

医師法第17条 歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について

この解釈によって、それまで医療行為とされていた行為の一部が、医療行為ではなくなり、介護士にもできるようになりました。

なぜ、医療行為とされていた行為が介護士にできるようになったのでしょうか?

その背景には、医療行為が必要な高齢者が増えたことや看護師の不足などがあります。

医療行為についての需要と供給のバランスが崩れ、介護士にも医療行為を求められていました。

しかし、先ほどお伝えしたように、医師法では医師以外が医療行為をすることは禁止されています。

そのため、現場と法律にズレがあり、介護士がやってはいけないことと、できることが分かりづらかったのです。

そのあいまいさをなくし介護士にとっても利用者にとっても安心安全な環境を作るためにも、医療行為ではない行為が明かにされたのです。

それでは、2005年の解釈によって、介護士はどんなことができるようになったのでしょうか?

①体温測定

水銀体温計・電子体温計・耳式体温計での測定となります。

②血圧測定

自動血圧測定器による測定に限られます。

水銀血圧計での測定は介護士がやってはいけないことです

③動脈血酸素飽和度測定

パルスオキシメーターによる測定で、新生児以外の入院治療が必要ないものはできます。

④湿布の貼付

原則として、医療従事者から指導があったものに限られています。

⑤軟膏塗布

軽い擦り傷などの専門的な知識や技術がいらないものとなっています。

⑥目薬の点眼

原則、医療従事者の指示にっしたがって介助してください。

スポイトの先がまつ毛やまぶたに触れることで、汚染せれる可能性があるので、注意が必要です。

⑦服薬介助

1包化された薬の準備・服薬の声かけ・飲み残しがないかの確認します。

医療従事者による連続的な容態の経過観察が必要だったり、専門的な配慮が必要な場合PTPシートから薬を出すことは介護士がやってはいけないことです。

⑧坐薬の挿入

原則、医療従事者の指示にしたがって介助してください。

出血などがあると医療行為に該当することもあるので、医療従事者に相談しましょう。

⑨鼻腔粘膜への薬剤噴射の介助

点鼻薬によって液状のもの・パウダー状のもがあります。

また、治療目的によってそれぞれ注意事項があるので、医師の指示にしたがって介助してください。

ストーマの交換について

ストーマの交換については、平成23年に介護士でもできるようになりました。

ストーマとは手術によって人工的に作られた排泄口のことで、人工肛門・人工膀胱と言われているものです。

皮膚の状態に異常がないことなどの条件が満たされていれば、介護士にもストーマの交換ができます。

ストーマの交換の際に注意事項もありますので、詳しいことは以下の記事を参考にしてください。

https://caregiver-info.com/sutoma

利用者の状況によってはできない場合のケアについて

下記の行為も、原則規制の対象外となりました。

しかし、利用者の病状が不安定であったり専門的な管理が必要な場合には、医療行為になることもあり得ます。

必要に応じて医療従事者に確認してください。

①耳垢の除去

耳垢の掃除は、介護士にもできますが、耳垢塞栓の場合は、介護士がやってはいけないことです。

耳垢塞栓とは耳垢が耳の穴の中を塞いでしまう状態のことです。

耳垢塞栓の場合介護士が耳掃除をすることで、耳垢を奥に押し込んでしまう・耳に圧迫感が出る・外耳炎になるなどの症状を悪化させる可能性があります

そのため、医療従事者に相談し、必要であれば耳鼻科受診するなど対応してもらってください。

②爪切り、爪やすり

爪やその周辺の皮膚に異常がなく、専門的な管理が必要ない場合にのみできます。

例えば、巻き爪や糖尿病などの基礎疾患があり専門的な管理が必要な場合は、介護士がやってはいけないことなので、医療従事者にお願いしましょう。

糖尿病の場合、神経障害で皮膚感覚が麻痺していたり、高血糖のために感染症のリスクが高くなります。

また、皮膚が傷つきやすく治りにくい状態となっているので、爪切りをすることで皮膚に傷をつけてしまい壊疽につながることも考えられます。

フットケアを行う糖尿病内科もあるため、医療従事者や上司と相談し、適切な対応が必要になります。

③口腔ケア

歯ブラシや綿棒などを使用して、歯を磨いたり口腔内の粘膜をきれいにすることは、事業所によっては介護士にもできる行為として日常的に行っていますよね。

ただし、歯周病などの異常がある場合には、医療行為となることもあり、介護士がやってはいけないことになりうることがあります。

歯周病は歯周病菌や菌の出す毒素が血流によって全身に運ばれることで、全身に影響が及ぶことがあります。

例えば、糖尿病の場合、歯周病による炎症でインスリンの機能を低下させて、病状が悪化する可能性があることがわかっています。

そのため、歯周病などの異常がある場合には、医療従事者に相談してくださいね。

④カテーテルの準備、体位保持

自己導尿の補助として、カテーテルの準備をしたり、体位保持のための介助は、介護士にできます。

あくまでも、補助になることは介護士がやってもよいことですが、カテーテルの挿入は介護士がやってはいけないことなので、間違えないでくださいね。

⑤市販の浣腸器を用いた浣腸

市販のディスボーザブル浣腸を用いた浣腸であれば、介護士がやってもよいことです。

浣腸については、挿入部の長さが6cm程度以内で、グリセリン濃度が50%と規定されています。

また、年齢によって以下のように使用量が決められていますので、参考にしてください。

  • 成人用の場合で40g程度
  • 6歳〜12歳の小児用の場合で20g程度
  • 1歳〜6歳の幼児用の場合で10g程度

喀痰吸引、経管栄養について

喀痰吸引や、経管栄養は医療的ケアに該当します。

医療的ケアの明確な定義はありませんが、生きるために必須となる行為です。

病院であれば、医療職によって、医療行為として行われていますね。

しかし、家庭や学校などでは、家族や教員が日常的に介助として行うものです。

定期的に痰を取り除く喀痰吸引や、体外から管を通して栄養や水分を投与する経管栄養については、下記の条件のもと、介護士がやってもよいことになりました。

  • 2015年以降、介護福祉士の資格取得した場合、喀痰吸引等研修の実地研修を受講後、各都道府県へ申請し、認定特定行為業務従事者の認定を受ける。
  • 2015年以前に、介護福祉士の資格を取得した場合、喀痰吸引等研修の基本研修と実地研修を受講後、各都道府県へ申請し、認定特定行為業務従事者の認定を受ける。
  • 事業所が喀痰吸引等登録認定行為事業者の申請をし、許可を得ていること。
  • 医師、看護師の指導のもと行うこと。

以上のように、喀痰吸引、経管栄養を行う場合には、介護福祉士の資格を取得し、研修を受ける必要があります。

事業所は、許可を受けた上で、医師、看護師の指導のもと、行うことができるようになります。

友人から聞いたことですが、看護師の不足などの理由で、喀痰吸引や経管栄養を介護士がやらざるを得ないこともあったようです。

今後は、条件をクリアさえすれば、安心して仕事に取り組むことができるようになりましたね。

介護士に医療知識は必要?

介護士による医療行為はやってはいけないことなので、医療知識は必要ないと思っていませんか?

訪問サービスでは、介護士が一人で居宅に伺うことになりますし、特別養護老人ホームなどの施設によっては、夜勤は介護士のみになりまよね。

そのような場合、介護士が利用者の変化に気づき適切な対応、医療従事者へ適切に報告するために、医療知識は必要ですよ。

例えば、利用者の意識がもうろうとしていた時、医療知識があれば、ろれつが回らない、刺激の反応が薄い、右手がしびれている、血圧が高いなど、具体的に報告することができ、早期対応につながります。

何より、医療知識に基づく適切な初期対応ができることにより、自信を持って介助ができるようになりますよね。

介護現場で医療行為をするように、求められたら?

医療行為は医療従事者でないとやってはいけないことであり、介護士が行うと、医療行為違反にあたることは前述した通りです。

もし、勤務先で医療行為を求められたら、どうしますか?

もしかしたら勤務先では、医療行為であることを知らないのかもしれません。

そんな時には、管理者や上司に医療行為であることを伝え、医療従事者にやってもらうよう相談してみてください。

それでも、改善が見られない時には、退職の選択が必要かもしれません。

みんなが日常的に行っている行為に、自分だけが意義を唱えることは難しいこともあるでしょう。

しかし、自分自身の身を守るために、違法性を訴え、断る勇気を持ちましょう。

勇気を持って行動したことが、事故から利用者を守ることにもつながりますよ。

そのために、何が医療行為になるのか、正しく理解しておくことが大切です。

まとめ

介護士による医療行為は、一部解禁になり、利用者の状態が安定しているなどの条件下であれば、やってもよいこともあります。

医療行為のニーズが高まっている背景もあり、介護士による医療行為の状況は変化していくことが考えられます。

そのため、常日頃から新しい情報をキャッチしていく必要性があります。

自分自身の身を守るために、正しい知識のもと、医療行為を求められたら、断る・医療従事者にやってもらうといった対処をしていきましょう。

 

 

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